2010年3月16日火曜日

国際親権紛争

国際親権紛争 まず実態把握が必要だ

 国際結婚したが離婚し、子供を日本に連れ帰ったら相手国から誘拐罪に問われた--。実際に起きている話である。

 国境を超えた親権争いが外交問題に発展している。「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(ハーグ条約)へ日本も加盟するよう欧米の圧力が強まっているのだ。

 条約は、子供が居住国から連れ出された場合、親が返還を申し立てれば、相手側の政府は子供の返還や面接交渉に協力する義務を負うとしている。主要8カ国で未加盟は日本とロシアだけである。

 欧米が加盟を求めるのは、日本人の母が子供を連れ帰り、父とトラブルになる例が多いためだ。米国、英国、フランス、カナダの4カ国が180件以上あると指摘する。逆に海外に子供を連れていかれたとの相談も増えているが、明らかになった例はそれほど多くない。

 背景には、親権制度の違いがある。条約加盟国の多くは「共同親権」で、離婚後も子供は父と母の間を頻繁に行き来する。一方、日本は離婚後は「単独親権」で母親が親権を取るケースが多い。

 子供を連れ帰る母親の心理は「自分が育てて当然」なのだろう。しかもその多くが夫の暴力(DV)を訴えているという。安定した環境で暮らす子供を、なぜDV夫の元に置かねばならないのか。戻っても裁判などで差別されず養育権が得られるのか。そんな不安もあるようだ。

 確かに、「共同親権」の下で一方の親の意思を無視して子供を連れ帰るのはルール違反かもしれない。だが、自国民の権益を守るという政府の基本的な立場とぶつかる可能性があるならば、慎重に対応すべきだ。

 外務省は、外国公館から具体的に面会などの要求があれば仲介し、当事者にも話を聞いているという。だが、指摘のあったケースについて相手側も含めもっと広範にヒアリングして実態を把握すべきではないか。「民事不介入」が原則とはいえ、外交問題になっているのだ。

 条約には、子供の利益に反する場合、相手国に戻さなくていいとの規定もある。その運用実態も調べなければならない。加盟国同士で引き渡しをめぐりトラブルもあるという。ハーグの事務局に集積されている具体例を分析することも必要だ。

 鳩山由紀夫首相は先月下旬、岡田克也外相と千葉景子法相に早期に結論を出すよう指示した。だが、まだ詰めるべき点は多い。第一に優先すべきは、「子供の利益」である。

 国際結婚は珍しくなくなった。外国人と暮らし子供を育てるという決断をする重みを個々人が認識すべきなのは言うまでもない。

英訳

社説:国際親権紛争 まず実態把握が必要だ - 毎日jp(毎日新聞)

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